ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

Parkway Drive 『Darker Still』

  • 一点の曇りもない硬派一徹グルーヴメタル
  • 重心の低いベースと、時折メロウに泣くギター
  • 劇的なハイライトとなるタイトルトラック

 

覇鬼に吸収された美奈子先生?

 

違いました。オーストラリア出身のグルーヴメタルバンド・Parkway Driveの最新作のジャケットです。

 

このParkway Drive、海外のメタルフェスではヘッドライナー級の扱いを受ける人気バンドでありながら、日本における注目度はお世辞にも高いとは言い難い。前作『Reverence』以来4年ぶりとなる本作がリリースされても、国内のメタルシーンが盛り上がってる印象は全然ないしね...。

 

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内容としては前作と大きくは変わらず、往年のメタルコアとはやや趣を異にする、FIVE FINGER DEATH PUNCHあたりに通じるグルーヴィなメタル。ヘヴィミュージック愛好家には、文句なしに気に入られるサウンドでしょう。

 

なかなか存在感ある太いベースラインがタフな印象を強め(ズンズン響くような迫力はこのベースの力によるところが大きい)、ところどころにメロディックな旋律を描くリードギターを絡ませる。キャッチーなシンガロングやリズミカルなサビを取り入れ、ミドル〜アップテンポを中心に進み行く。硬派でストロングなモダンメタルサウンド

 

重心の低いヘヴィサウンドに、安くならない範囲でメロウなクリーンを入れるスタイルは、チャラっぽくならない中でも非常に聴きやすく、かつ無骨さも醸し出している。個人的にはもう少しオーソドックスなメロディックメタルコアの方が好みではありますが、充分にカッコいいと感じられる音ですね。

 

切ないヴォーカルの出だしから、一気にヴォーカルメロディーをなぞるリードギターが飛び出すM1「Ground Zero」。ノリの良いリズムにハマるシンガロングを用いて、ヘヴィ&キャッチーなモダンメタルを展開し、後続の楽曲もそこから大きく型を変えずに立て続く。

 

ただまあ、どの曲もカッコよくはあるのですが、やや似通ったタイプの楽曲が多いので、少々アルバムとしての起伏にかけるきらいはあるかも。もちろんどの曲もよく練られていて退屈さは感じませんけど。前作にもあった神聖なムードを、コーラスとオルガン風の音色で味付けしたM4「The Greatest Fear」なんかは特に良い。

 

そして本作のキーとなるのが、タイトルトラックであるM5「Darker Still」。

 

退廃的で胸に染み入る哀愁をアコギと口笛で表現し、そのまま淡々と歌い出すヴォーカル。ゆっくりと男の悲哀に満ちたメロディーを歌い上げていくかと思ったら、後半にかけて力強いドラムと共にメロウなギターが泣きながら顔を出す。壮大なオーケストレーションも味方につけ、クライマックスに向かい非常にエモーショナルなギターソロを投下。そのまま大仰なコーラスにてサビが歌われる様は実に感動的!

 

ノーマルなモダンメタルとは一線を画すドラマチックな名曲で、この曲がアルバム中盤にあることで、似た曲が続きやや集中力が途切れるという事態に陥らないようにしているのも嬉しいですね。明らかにこの曲起点でアルバムの雰囲気というか、これまで漂ってた空気感が変わりますからね。

 

後半も勢いは落ちず、ややメロディックに重きを置いた曲から、アグレッシヴな面にフォーカスした曲、繋ぎとなる短めの曲と、多少幅を利かせつつも、一本芯の通ったモダンヘヴィ、グルーヴィなメタルを貫き通す。出だしの"ポイズゥゥゥン!!"のシャウトがアツすぎるM8「Soul Bleach」が特に好き。

 

M11「From The Heart Of The Darkness」が、アルバムのラストを締めくくるにしては、ちょっとメロディーの哀愁が足りず(オーケストレーションやギターソロは出てくるが)、どちらかというと強靭なリズム重視の曲なのは、ドラマ性を描く上ではちょっとマイナスかもしれないか...?

 

前作に続き、軸のブレない硬質、かつ硬派なグルーヴメタル/オルタナティヴメタルがたっぷり詰め込まれており、5FDPなどに通じるヘヴィさやキャッチーさを好む人なら、本作も充分に楽しむことができるでしょう。ヤワな要素は微塵も感じさせず、それでいて大型フェスのヘッドライナーになるのも納得のスケールを持ち合わせた、堂々たる完成度です。

 

なお前述した通り、タイトルトラックのM5は他の楽曲とは次元を異にする、劇的な名曲なので、モダン化されたメタルに食指が動かん人も、この曲だけでも聴いてほしいなあ。

 

 

個人的に本作は

"前作の方向性を踏襲し、モダンなヘヴィさとキャッチーさを内包した、強靭・硬派なグルーヴメタル。タイトルトラックは抜きん出た劇的名曲"

という感じです。

 


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AMON AMARTH 『The Great Heathen Army』

  • ジャケットに違わぬ、無骨な男の美学
  • 良くも悪くも前作ほどのわかりやすいキャッチーさは無し
  • 従来通り硬派な男泣き要素は変わらない!

 

ヴァイキングメタルというスタイルを通して、熱き男の美学を徹底的に描くド硬派バンド・Amon Amarthの最新作。5人のメンバーが佇むジャケットのイラストからしインパクト抜群だぜ。

 

前作『Berserker』は、ナヨッちさとは一切無縁、血潮激る男臭さがムンムンながら、非常にキャッチーな旋律を奏でるリードギターを武器に疾走する曲を携え、暑苦しいのに聴きやすいという絶妙なバランスを実現した快作でした。

 

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本作においても音楽性の基本線は変わらず。地を揺るがすかのような低音デスヴォイス質実剛健なリフワークで進み行く硬派なメタルを貫き通す。キンタマぶら下げた男として、聴いていて無条件に気合いが入るよう。

 

ただ前作と比べると、やや僕好みの要素は薄れてしまったかな?というのが本音。

 

というのも、前作には「Mjölner, Hammer Of Thor」「Raven's Flight」のような、ムサい男の世界観を一切損なわずに、わかりやすいほどキャッチーなメロディーを紡ぐリードギター、疾走感がプラスされているキラーチューンがあったのですが、そういったわかりやすさが減退しているから。

 

もともと彼らはそんなにキャッチーさを押し出すようなバンドではなかったので、むしろそういう要素を控え、ミドルテンポでひたすらに不器用さ、無骨さを打ち出す方がAMON AMARTHらしいと言えるのかもしれません。

 

しかし、僕のような速くてキャッチー、わかりやすくてパワフルなメタルが好きな者からすると、どうしても前作との比較において地味になってしまった感は拭えないですね...。前作はキャッチーな面が秀でていたからこそ、2019年のベスト10に選出したわけですし。

 

即効性を減退させた反面、何か他に目立つ加点ポイントがあるかというとそうでもないので、単純にキラーに欠ける印象が強くなってしまったかな。

 

まあ、それでも何度も言うように、彼ら特有の男泣き要素は必要十分なものがある。従来の彼らのサウンドが気に入っている人からすれば、何も裏切られることはないんですけどね。M1「Get In The Ring」のメロデスライクな叙情リフの連続でズンズンと進みゆく様は、何とも雄々しい迫力!ツタツタ疾走するだけでは出せないエナジーがあります。

 

ノリの良いリズムとシンガロング、渋い男泣きリードギターが特徴的なM3「Heidrun」、よりヴァイキングメタルとしての勇壮さが強くなったギターに酔いしれるM5「Find A Way Or Make One」〜M6「Dawn Of Norsemen」の二連打が気に入ってます。やっぱヴォーカルの低音スゴいな。

 

M7「Saxon And Vikings」は、SAXONのヴォーカルであるビフ・ヴァイフォードがゲストで参加した曲。SAXONのヴォーカルとヴァイキングメタルを演るから「Saxon And Vikings」。そのまんますぎるタイトルだ。

 

そしてこの曲が、本作の中ではかなりアップテンポな部類で、劇的な高速メロディックリフとギターソロ、猛る男の姿が容易に想起できる力強い歌が同居する、本作のハイライトとなり得る名曲となっています。

 

前作のようなキャッチー路線(このバンドにしては)に魅せられた自分としては、それが減退してしまったことこそ残念ではありました。しかし全体を通して芯はまったくブレず、AMON AMARTHらしい屈強な男メタルが堪能できる作品であることに間違いはない!

 

このむさ苦しい世界観を構築し続ける限り、このバンドは安泰だろうと思う反面、次作以降はもう少しキャッチーな姿勢を強めてくれてもいいよ、とも思っちゃうな。

 

 

個人的に本作は

"徹底的に男の美学を貫く、ド硬派勇壮ヴァイキングメタル一直線。芯はブレないが前作ほどのキャッチーさはない"

という感じです。

 


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STRATOVARIUS 『Survive』

  • 軸のブレないミドル中心のメロディックメタル
  • パワフルなリズム隊とギター&キーボードソロの聴きごたえが抜群
  • 派手さは控えめ、安心安定の高いクオリティー

 

HELLOWEENと並び、日本においても国際的においても最も人気とクオリティーの高いメロディックメタルバンドと言える、フィンランドメタル代表格・STRATOVARIUSの最新作。

 

これまでコンスタントにアルバムを出してきた彼らですが、本作はだいぶリリース期間が空いてしまっており、実に7年ぶりとなります。

 

かつての中心人物ティモ・トルキが脱退した後は、高度な演奏技術に裏打ちされたプログレッシヴな展開を軸としつつ、北欧メタルらしい透明感あるメロディーを武器とした楽曲を量産している彼ら。本作も従来と同様の路線で、ハイレベルな演奏とクリアな歌メロの両立ができています。

 

これまで発表してきた作品の方向性をしっかりと踏襲している感があり(前作に比べストレートなパワーメタル感は控えめですが)、これこそが自分たちのメタルだ、というものを完全に確立できているのでしょうね。新鮮味こそないものの、本当に高いレベルで安定している。

 

ヴォーカルのティモ・コティペルトは、本作のライナーノーツにて「フレッシュ、ヘヴィ、メロディック、エピック、プログレッシヴ、モダン、トラディショナル - これらすべての要素をこのアルバムで見つけることができるはずだよ」と語ってますが、確かにそう思わせるような作風かも。近年の彼らのようなプログレ風味の演奏に、非常にメロディックな歌メロ、パワーメタリックなドラムもあるし、モダンで洗練された音作りながら、古き良き北欧メタルのスタンスを貫いている。

 

特に嬉しいのはロルフ・ピルヴのドラムがかなりパワフルなところです。どれだけキラキラしたメロディアスチューンをプレイしていても、この硬質で手数が多く、タイトにまとまったドラムのおかげで、楽曲があくまでヘヴィメタルであることを主張しているかのよう。

 

往年のネオクラシカルな色合いを見せるキーボードと、それに絡む高速でテクニカルなギターソロなども聴きごたえがあり、歌メロのみならずバッキングトラックの魅力も秀でています。

 

メロディックスピードメタルという呼称が似合うようなスピードナンバーはM8「Glory Days」くらいのものですが、これだけ充実した楽曲群を聴かせてくれるのであれば、疾走感の不足もさしたる不満にはなりません。

 

ちなみにそのM8、キラキラネオクラシンセと哀愁メロで疾走し、ギターソロも完全にテクニックよりメロディー重視、往年のクサメタルを彷彿とさせる楽曲に仕上がっています。クサメタルブームがすっかり過ぎ去った今でも、まだまだこういうタイプの曲を魅力的に聴かせることができるんですね!

 

サビのシリアスで哀愁溢れるメロディーが実に気持ちいいM1「Survive」を筆頭に、リードギターが良いフックを持った哀メロを奏でるM4「Firefly」、長く美しく構築されたギターソロの唸りが心地よく、ややヘヴィな質感も持ち合わせたM6「Frozen In Time」、ウォーウォー言うコーラスとシンフォニックな味付けで壮大な印象を醸し出し、これまたギターソロがカッコいいM10「Before The Fall」と、高く安定したクオリティーの楽曲が立て続く。

 

ラストのM11「Voice Of Thunder」は10分を超える大作としてクライマックスを彩る。さほど展開がダイナミックというわけではないですが、メランコリックな歌メロに、壮大な間奏、最後に大仰に盛り立てるシンフォサウンドの美しさと猛烈な泣きは素敵。長い曲ながらさほどダレを生まないのも良いですね。

 

スピードチューンが少なく、やや似通ったタイプの曲で固めているため、鮮烈なインパクトや抜きん出たもの感じさせるわけではないものの、長いキャリアに裏打ちされた確かな演奏力とクオリティー、それでいて懐古的になることもないモダンさも持ち合わせた、安心安定のメタルが聴ける1枚に仕上がったと言えるでしょう。

 

 

個人的に本作は

"近年のSTRATOVARIUSらしさをしっかりと踏襲。高度な演奏技術と潤沢なメロディーを揃えた、ハイレベルでプログレッシヴなメロディックメタル"

という感じです。

 


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MEGADETH 『The Sick, The Dying... And The Dead!』

  • 様々なトラブルを乗り越えて作り上げた6年ぶり最新作
  • キコ・ルーレイロがいよいよ本格的に作曲に加わる
  • 攻撃的なMEGADETHらしさを存分に発揮

 

スラッシュメタル四天王、いわゆるBIG4の一角であり、来年には日本武道館ライヴも決定しているインテレクチュアル・スラッシュメタルバンドMEGADETHの最新作。BIG4の中では最も新作発表のペースが早い彼らですが、前作『Dystopia』からは6年ぶりと、だいぶリリースの間隔が空いてしまっています。

 

この期間、バンドはなかなか大変な出来事に見舞われており、前作リリース後にはドラムのクリス・アドラーが脱退(もともと正式メンバーではなかったらしいですが)。後任として元SOILWORKのダーク・ヴェルビューレンを迎えるも、2019年にはデイヴ・ムステインに咽頭がんが発覚して、その後に控えていたスケジュールが白紙に。

 

2020年に入るとコロナ禍が到来し、さらに追い討ちをかけるように、デイヴと並んでバンドの看板であったベーシストのデイヴィッド・エレフソンが、未成年とのアレやコレやなメッセージや動画がSNS上に流出してバンドから解雇される......など、なかなかに波瀾万丈なストーリー。

 

しかし、そんな逆境にすらめげずに曲作りを続け、先行公開されたM12「We'll Be Back(なんて素敵なタイトル!)は、MEGADETHというバンドに求められている要素がしっかり息づいた性急なスラッシュチューン。この曲を聴いて一気に新作への期待が高まった人も多かったでしょうね。ベースについては、デイヴィッド・エレフソン解雇に伴い、新たにTESTAMENTのスティーヴ・ディジョルジオが録り直したそう。

 

その後に公開されていった楽曲も、どれもが鋭くテクニカルなリフに次ぐリフ、デイヴのふてぶてし〜いヴォーカル、テンションの高まりを一切損ねないスピード感と、実にMEGADETHらしい完成度を誇るものばかりでした。

 

そして実際届けられた本作も、事前に高まった期待に応えてくれる良質なもの。先行公開された楽曲のインパクトを超えるような楽曲は少なかったものの、どの曲もMEGADETHらしい危険なオーラ、緊張感、鋭利に研ぎ澄まされたリフ、複雑かつ高速に弾き倒されるソロと、これぞMEGADETH!なサウンド。嫌でも過去作品を連想させるタイトルもそうですが、かつてのMEGADETHとしてのスタイルを今に再現しようという意思があるのかも。

 

デイヴももう61歳、還暦を超えたというのに(本作のレコーディング期はもうちょい前ですが)、まだまだヤレるぜと言わんばかりに、攻撃的なリフを量産していて頼もしいのなんの。ほとんどの曲の作曲クレジットにキコ・ルーレイロの名前があるので、ある程度は彼からのインプットもあるのでしょうが、まだまだ大佐の前のめりな姿勢は崩れない。

 

非常にMEGADETHらしいと言えるだけに、作曲に携わった割にはあまりキコ・ルーレイロっぽさANGRAっぽさみたいなものは強く感じられない。気持ちメロディックなギターフレーズが聴かれるかな?とは思いましたが、やっぱりデイヴがフロントマンを務める限り、このバンドはどこまでいってもMEGADETHなんだな。

 

まあ、MEGADETHというバンド名にメロディックパワーメタル的な音像などは求めていないし(それはそれで聴いてみたい気もしますが)、攻撃的なリフが充実していて刺々しいサウンドが提供されていれば、リスナー側としては何の問題もないですね。

 

M1「The Sick, The Dying... And The Dead!」〜M2「Life In Hell」〜M3「Night Stalkers」という、頭3曲のインパクトが特に凄まじく、性急なテンポで巧みなリフさばきが炸裂、ツインリードの速弾きがこれでもかと刻まれる様は圧巻。

 

イントロの美しきアコギからヘヴィに展開し、後半からの疾走リフの刻みに興奮させられること請け合いのM4「Dogs Of Chernobyl」に、曲タイトルを叫ぶヴォーカルがやけに耳に残り、ラストを飾る高速ギターソロが文句なしにカッコいいM6「Junkie」、まるで正統派メタルかと思うほどのギターリフ(なんとなくHIBRIAを思い出した)からスタートし、鋭利かつリズミカルなリフと疾走感でメチャクチャ心地良く頭を振れるM10「Célebutante(これはかなりのキラーチューンだと思う)と、どれもこれも破壊力満点のインテレクチュアルスラッシュナンバーばかり。

 

そしてトドメと言わんばかりに前述の名曲M12がラストに構えているわけですからね。従来のファンなら、充分以上に満足することができるはず。

 

前作に引き続き、MEGADETHならではの良作に仕上がっています。やはり何といってもリフにしろソロにしろ、ヒリヒリするような危険なオーラ! これが漂っているから、MEGADETHはカッコいいのです。

 

キコが加入してからのここ二作品は、MEGADETHの名に期待されるアルバムになっているわけですから、無機質なイメージの強いバンドながら、案外メロディックなセンスを持ったギタリストとの相性が良いのかもしれない。

 

 

個人的に本作は

"攻撃的かつ緊張感に満ちたリフ/ソロが支配する、MEGADETHらしい危険な魅力溢れるスラッシュ作品"

という感じです。

 


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明日の叙景 『アイランド』

 

「J-POP?それともブラックメタル?」

本作の帯に記載されている文句です。

 

「これは普通のメタルじゃないんだろうな」

ジャケットと合わせて、すぐにそう思わせてくれました。

 

2014年に結成された日本のポストブラックメタルバンド・明日の叙景の2ndフルアルバム。僕は過去作は未聴で、彼らの音源はこれが初。

 

というかまず、ポストブラックメタルというジャンル自体に馴染みが全然無く、唯一聴いたことがあるのはDEAFHEAVENくらいのもの(それもアルバム1枚しっかり聴いた訳ではなく、数曲つまみ食い感覚で聴いたくらい) この手の音はほぼ無知と言っていいです。

 

そんな僕がなぜ本作に手を伸ばしたかと言うと、やはりこの異質さ。アニメのサウンドトラックにありそうなジャケットに、上記したいかにも中身が気になる文句。これが堂々とディスクユニオンのメタルコーナーに鎮座してたら、そりゃあ「これは何だ?」ってなりますよ。あと先日のDownload Japanの会場にも、このジャケットをあしらえたTシャツ着てた人がいて、それも印象強かったな。

 

そんなわけで、このジャンルには全く予備知識のない僕は、「ポストブラックメタルとはこうあるべき!」みたいな先入観なしに、フラットに本作の音に触れることができたわけですが......中身も何だか異質というか、だいぶ個性的なサウンドだなと。

 

ブラックメタルというジャンルは、どうしてもサタニックで不気味、リスナーに恐怖感を与えるようなサウンドを想起してしまうのですが、本作においてはそういった要素は少ない(曲によって無いわけではない)

 

ポストブラックというジャンルを軸としながらも、メンバーのルーツとなっているJ-POP/ROCKの要素を多分に取り込み、ブラックメタルというジャンルからは想像もつかないほど明朗なメロディーが根付いています。

 

金切り声で絶叫するヴォーカルはブラックメタル的ながら、衝動性と突進力、そして耳に馴染みやすい旋律を纏って疾走する様は、どちらかというとメタルというよりは激情ハードコア系統に近い。さらに言うなれば凛として時雨に代表される、いわゆる「残響系」と呼ばれるようなサウンドに通じるものもある。「夏」をテーマとした、明るくもどこか儚げな雰囲気とかがそんな感じ。

(凛として時雨って残響レコード所属のバンドではないですけど、何となく残響系の代表格ってイメージありますよね。ありません?)

 

Spotifyのプレイリストに、本作の楽曲を制作する上で影響を受けた曲を一挙にまとめていました。それを見るとDEAFHEAVEN、CRADLE OF FILTH、At The Gatesといったエクストリームメタル勢に加えて、9mm Parabellum Bullet凛として時雨THE BACK HORNなど、J-ROCK界隈で人気を集めているバンド、MUCCDIR EN GREYというV系界隈のバンド、さらにはLUNA SEAにL'Arc〜en〜Cielといった大物まで。

 

 

そして激情ポストハードコアバンド・envyの名も上がっていて納得。というのも、僕が本作を聴いてまず浮かんできたのがenvyの名前だったからです。激情ハードコアに通じる音作りといい、シャウトスタイルながらハッキリと日本語であることがわかるヴォーカルといい、語りの多さといい、かなり共通するものを感じたので。

 

高速のトレモロリフから繋がるギターのフレーズが、普通にJ-ROCKに使われていてもおかしくないほどキャッチーなM2「キメラ」、ダンサブルという言葉すらよぎるリズムに、あまりに爽やかでちょっぴり切ない煌めきを秘めたクリーンギター、そしてポップなメロディーが舞うM5「歌姫とそこにあれ」なんかは、本当にブラックメタルの一種なのかと疑ってしまうほど。ブラックメタルなのに希望がありすぎる。

 

しかしそんな楽曲でもヴォーカルだけはしっかり高音主体の金切り声であり、高速なビートとアグレッシヴなリフの存在感により、ポストブラックメタルという芯はブレずにある......と思う。

 

後半になると、猛然と疾走するドラムに寒々しい邪悪なリフが絡んでいくM7「忘却過ぎし」、よりヒリヒリとした緊張感をリフに宿したM8「甘き渦の微笑」という、ダークな楽曲が立て続いていく。いくらJ-POPルーツを出そうとも、やはりそこはブラックメタルバンドなのだなと思わせてくれます。

 

そしてラストを飾るM11「遠雷と君」は個人的に一番好きな曲。ブラストビートで爆走しまくる中、非常にキャッチーなリードギターが大胆に導入され、アルバムの幕切れをドラマチックに彩ってくれる。後半のクリーンギターによって演出される静寂から、語りを挟んでラスサビへと流れ込む展開が劇的で美しい。

 

楽曲のスタイルから、歌詞、ジャケット、さらにはバンド名に至るまでだいぶ個性的な本作。ポストブラックメタルというジャンルに造詣がなく、かつメロディアスなメタルを好む僕としてはなかなか気に入りました。本作を作る上でインスピレーションを受けたというバンドも好きなバンド多いですし。

 

しかし、本当にDEAFHEAVENをはじめとする、ポストブラック好きの人にはどう映るんでしょうね。「こちとらメタルが聴きたいんだよ。J-POPの要素とかいらねえよ」とか思われるのでしょうか。

 

明るい曲はかなり明るいし、語りが多いのもあって、結構好き嫌いは分かれやすいかもしれません。僕としてはその明るいフィーリングのおかげで、聴きやすくなってありがたいんですけどね。

 

 

個人的に本作は

"ポストブラックメタルサウンドに、激情ハードコア、さらには爽やかJ-POP/J-ROCK的メロディアスさまで取り入れた個性的な一枚"

という感じです。

 


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dustbox 『Intergalactic』

  • リフからメロまでダスト節満載
  • 後半のメロディアスな楽曲の畳み掛け
  • ここ近作の中でメロディーの充実度は最高峰

 

国内のメロディックシーンを牽引し続け、気づけばもはやベテランの域に達しつつある、3ピースメロディックハードコアバンド・dustboxの最新作。前作『The Awakening』より3年ぶりとなります。

 

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本作収録曲はアルバムのリリースに先立って、3つの限定シングルに分けて販売されるという、だいぶ変則的な発表をされていました。僕は単一のアルバムとして聴きたかったので、特にシングルには手を出しませんでしたが。

 

そんな先行シングル収録の楽曲14曲に、過去曲「Still Believing」「Pity Party」「Jupiter」のアコースティックバージョン3曲をプラスした全17曲。収録時間46分と、彼らのアルバムとしてはなかなかのボリュームを誇る。

 

インディーズにドロップアウトしてから、基本的に哀愁美メロ疾走メロコアという軸はまったくブレてない彼ら。本作も当然のごとく、dustboxらしさ満載の軽快なメロコアがたっぷり収められています。

 

ヘヴィさはないけどザクザクした刻みが気持ちいいリフに、メロディーの叙情性をさらに強調させるバッキングコーラス、完全に明るくなり切れない絶妙な哀愁加減の歌メロと、ダスト流メロコアの方法論はどの曲にも息づいている。

 

M4「Hole」の叙情メロコアで進み行き、サビ前でボサノヴァ風というか、ラウンジミュージック的な展開になるところとかは、いかにもdustboxって感じ。M5「Wake The Sleeping Sun Up」なんかは、出だしのリフからラストの半音上がるサビに至るまで、全てがダスト節と言えるほどで、初めて聴いた気がしない(笑)

 

前半から良い感じに仕上がった楽曲が続きますが、特に素晴らしいのは後半。2004年のミニアルバム『triangle』収録の再録バージョンM8「Pieces Of My Heart」で、しっとりとした空気感に包まれた後の、M9「My Life Without You」以降の流れ。これが特に良い!

 

M9はdustboxというバンドに期待される、切なく美しいメロディーがギュッと凝縮された、文句なしのキラーチューン。バッキングの美麗コーラス、ラスサビ直前のアコギパート、そこからラストへ突っ走るサビの猛烈な切なさ、これこそdustboxに求める哀愁叙情メロコア

 

疾走感を抑えながらも、強烈なフックを持ったヴォーカルを聴かせるM10「Sparks」、クリーンギターを主軸としたバラードながら、後半の狂おしいほどの哀感あるサビで疾走するM11「Summer To Remember」と立て続き、ここへきて一気に哀愁のギアが上がったのかと思わされます。「こういうメロを聴きたかった!」というニーズにバッチリ応えてくれる流れです。

 

M12「Smash The Crown」は、彼らがアルバム中1曲は入れてくるハードコアテイストの強い楽曲。従来の楽曲通り、音作りはジャパコアのようなバキバキの歪みではなく軽快なメロコアのそれで、サビはメロディックに決めてくれる。

 

そしてアルバムのクライマックスを彩るM13「Unnamed Song」は、美メロメロコアの決定版と言うべき芳醇な泣きを湛えた曲。この胸締め付ける珠玉のグッドメロディー、これこそdustboxの真骨頂!dustboxの音!

 

唯一欠点を挙げるとしたら(欠点というほどでもないが)、本編ラストのM14「Strawberry」が弾き語りによる短い曲で、その後前述した既存曲のアコギアレンジが3曲続くため、最後の最後になってテンションが落ちる構成になっていることくらいか。まあラスト3曲はあくまでボートラ的存在なので、さしたる問題ではない。

 

疾走曲にも、ミドル曲にも、さらにはアコギの弾き語りにまで、総じてdustboxらしい哀愁美旋律が支配的。彼らの強みであるメロディーセンスが遺憾無く発揮された良作だと言えますね。

 

現在のドラムのYU-KIさんが加入してからの音源(2016年の『skyrocket』以降)の中では、メロディーの平均点は一番と言ってもよく、とにかくdustboxらしい曲がたっぷり。まだまだ彼らの優れたメロディーメーカーぶりが衰えないことの証明になり得る強力盤です。

 

 

個人的に本作は

"近作の中で最も叙情美メロディーが溢れた一作。歌から演奏まで、ひたすら「dustboxらしい音」が目白押し"

という感じです。

 


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DIR EN GREY 『PHALARIS』

  • 深淵・特濃な音世界を描き出す
  • 概して難解、前作のわかりやすい突進力は控えめ
  • バンドの描く世界観に深く浸るように聴こう

 

V系という枠を超え日本が世界に誇る...なんて枕詞ももはや聞き飽きた感のある、国産ヘヴィロック/エクストリームメタルバンド・DIR EN GREYの、前作『The Insulated World』より4年ぶりとなる11thフルアルバム。

 

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ここ最近の彼らは、営業終了前の最後の新木場STUDIO COASTのアクトを飾り、全音源のストリーミング配信を解禁したり、今年結成25周年というメモリアルな年であるため、ファンたちにライヴで聴きたい曲を投票形式で募る「DIR EN GREY楽曲バトル!」という企画でTwitter上を賑わせたりと、海外でのライヴができない中でも印象的な活動を続けていました。

 

このDIR EN GREY楽曲バトル、ファンに下手に媚びずに孤高の存在感をアピールしてきた彼らにしては、「らしくない感」は感じてたものの、ちょいちょい自分の好きな曲に投票してました。やはりファン層はバンギャの人が多いからか、自分が好きなエクストリームな楽曲よりも、初期のヴィジュアル系色の濃い曲が選ばれやすかった感じでしたが。

 

songbattle2022.direngrey.co.jp

 

ちなみに意外なことに、この企画の最初の発案者は京さんなんだそうです。一番そういうのやらなそうな人だと思ってました。京さん曰く「ファンに対して『となりのトトロ』で男の子が傘を貸してくれたときみたいなヤツをやった」とのこと。トトロ、ちっちゃいときに見たことある気がするけど、お話の内容なんにも覚えてないな...

 

そんな企画を挟んで、満を持してリリースされた本作。タイトルのファラリスとは、古代ギリシャの拷問器具「ファラリスの雄牛」から来ており、ジャケットもそれそのもの。なんでも黄銅製で中が空洞の雄牛の像で、その中に人を閉じ込めて雄牛の腹下に火を焚き炙り殺す、というなかなかエゲつない代物らしい。中の人間の苦しみに満ちた声は、雄牛の口を通して周りの人間にしっかり聞こえるのだとか。悪趣味すぎ。

 

ちなみに僕がこのファラリスの雄牛という器具を初めて知ったのはアニマル連邦です(笑) 後日、本作のリリース情報が流れたとき「アニ連のやつじゃん!」と思ったものです。

 

 

まあアニ連どうこうは置いといて、本作の内容について。前作がハードコアパンク的な荒々しいアグレッションが目立っていたのに対し、本作はそこまで勢い重視ではない。ブラストビートが飛び出たり、DIR EN GREYらしいキレたヴォーカルパフォーマンスで疾走する曲もありますが、全体通して暗く、重く、深淵な世界観を広げていくかのよう。

 

レコーディングのエンジニアは、BULLET FOR MY VALENTINEやSTONE SOURなどの名バンドたちを手がけた人物らしく、彼らの音楽性の要でもあるヘヴィさはしっかりとキープ。ヘヴィロックとしてのサウンドのパワーは担保されているので、そこまで落ち着いた印象もありません。

 

先行シングルとなったM6「落ちた事のある空」が、癖の強いプログレッシヴな楽曲ということもあってか、概して難解で掴み所のない(というか見つけるのが難しい)アルバム。前作、前々作に比べて初聴でグッと魅力が掴める瞬間は少なめですね。エクストリームで勢いある楽曲が少ないのもその印象を強めています。

 

彼らならではのドロドロとした暗さ、陰鬱なまでの世界観は特濃。全11曲と数字だけ見ればコンパクトながら、一切軽さを感じさせない楽曲作りはさすがの一言で、この世界観に魅せられた人ならずっとずっと聴き浸っていられそうな深さがある。

 

何せアルバムのスタートを飾る楽曲M1「Schadenfreude」は、美しいアコギで始まったかと思えば、京さんならではのグロウル、金切りシャウトを交錯させた狂気的ヴォーカル、疾走パートも静寂パートも織り交ぜて、10分近くに渡ってDIR EN GREYの世界が繰り広げられるのです。最初から要素全部盛りって塩梅で、とにかく濃い。"行けども地獄か"のシンガロングがインパクト絶大。

 

他にもブラストビートとシンフォニックサウンドの融合により、ブラックメタルじみた美醜の世界を描くM3「The Perfume of Sin」、変幻自在に表情を変え、人を食ったような奇妙な歌い回しが全開になったM7「盲愛に処す」などで、さらにトリッキーな印象へ。

 

そんな中、本作中際立ってとっつきやすいキャッチーさを描き出すM2「」に、ずっしりとしたヘヴィなサウンドは健在ながら、どこか「美しい」という形容が似合うメロディーを劇的に歌うM4「13」あたりはかなり聴きやすく、こういった即効性のある(あくまで比較的に)曲が挟まるおかげでメリハリもついている。

 

ラストを飾るM11「カムイ」は、これまた9分以上ある大作ですが、M1のようにありとあらゆる展開で翻弄するようなことはせず、アコギを効果的に用いて裏寂しく淡々とした音を展開。終始落ち着いていて、ある種バラードと呼べる曲だとは思うのですが、温かみのある叙情性は皆無で、概して冷たく、そして不気味。

 

僕は基本的にはわかりやすくキャッチーな楽曲が好きなタイプのため、本作はやや敷居が高いのですが、リスナー側に媚びず、ここまで徹底して自身の世界を表現する彼らのスタンスはやはり素晴らしいものだなと。とにかく暗く、そして濃い作風なので、しっかり腰を据えて聴きたくなる一枚です。

 

まあ、本音を言えばもう少しわかりやすいと嬉しいし、美しさと暴虐性を併せ持ったキラーチューンがあるとなお良かったんですけどね。

 

ちなみに自分が買ったのは2枚組の初回盤で、「mazohyst of decadence」「ain't afraid to die」のリレコーディングが収録されたボーナスディスク付き。ヴォーカルのV系らしい癖が和らいでいて、僕としてはだいぶ聴きやすくなりました。

 

 

個人的に本作は

"わかりやすいアグレッション以上に、暗く難解な印象を与える一枚。バンドの世界観がより濃く、より深く表現されている"

という感じです。

 


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