ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

人間椅子 『苦楽』

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  • 人生における苦しみと、それを超えた先の幸福を表現
  • 重厚なリフとギターソロで魅了する鉄板ハードロック
  • どこか楽しげで真似したくなるコーラスもバッチリ

 

30年以上のキャリアを持つ大ベテランでありながら、今が人気の最盛期と言える稀有なハードロックバンド・人間椅子の最新作。ベテランになればなるほど新作リリースのペースが落ちるのを尻目に、前作『新青年』より2年のスパンと、相変わらずのコンスタントな制作ペースはさすがとしかいえません。

 

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本作は"苦と楽は表裏一体" "苦しみがあってこそ楽が輝き、幸せを感じる"という和嶋さんの言葉をコンセプトにした作品で、アルバムの最初と最後を飾るM1「杜子春」、M13「夜明け前」が、そのコンセプトの核となっているように感じます。

 

"生きるも地獄 死ぬるも地獄"と現代の人生における哀しみや苦しみを歌い、最後には"明けない闇夜はない 覚めない悪夢はない"と希望を抱かせるフレーズを駆使した楽曲で締める。混迷を極める現代において、こういった構成で聴かせる作品にはグッときますね。GALNERYUSの最新作も、こんな風に闇から光へ!って感じでしたね。

 

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ただアルバム自体は別に大仰なコンセプトアルバムなどではなく、従来通りの人間椅子らしいハードロックサウンドが展開されている。これまでの作品が気に入っている人であれば、何の心配も文句もない作品でしょう。

 

プログレッシヴロックからの影響を感じさせつつ、ハードロックらしさ極まる重厚なリフとソロ、日本的な不気味さ、不穏さ、おどろおどろしさを表現した曲展開とヴォーカルワーク、そんな中にもどこかユーモラスで楽しげなコーラスを織り交ぜたユニークなサウンドは全く不変。

 

"ヨーソロー!"とか、"用意ドーン!"とか、"ジンタッタ♪ジンタッタ♪"とか、真似してみたくなるようなフレーズがそこかしこで聴け、こういう親しみやすさをバンドコンセプトを崩さない範囲でバンバン入れられるのは、間違いないく彼らの強みだと思います。

 

70分を超える長大なアルバムであり、決して聴きやすいというジャンルの音楽ではないにもかかわらず、小難しさを感じさせずにしっかり聴き通させる造りは相変わらずで、これこそベテランが為せる職人技なのでしょうね。

 

前述のM1は、ハードかつキャッチーなギターリフが先導して進み、唐突に挟まれる異常にカッコいい疾走パートに荒れ狂うギターソロ、ラストには視界が開けたかのようなポップなマーチのリズムで締められる、曲展開の巧みさが活かされた7分半の大作。

 

やたらポップでノリの良いリズムとヴォーカルが聴けるにも関わらず、歌詞は完全にディストピアなM5「人間ロボット」、和嶋さんのバイク趣味が全開になった歌詞に、テーマに相応しいハード&ドライヴィンなサウンドが心地よいM7「疾れGT」、どこか昭和のアニメ、特撮のテーマを思わせる明朗なメロディーと、中盤のトリッキーなリフさばきにギターソロがメチャクチャ気持ちいいM9「悩みをつき抜けて歓喜に至れ」、ナカジマノブ兄貴の雄々しい歌唱に聴き惚れるM11「至上の唇」など、人間椅子らしい魅力あふれる個性的なナンバーが目白押し。

 

ラストのM13も、アルバムを締め括るにふさわしい名曲ですね。神秘的なクリーンギターのフレーズに、徐々にせり上がってくるようなけたたましいいドラム、堂々たる歌唱で苦しみを耐え抜いた先にある希望を歌い上げる。タイトル通り闇が晴れ、光が見えてくるような情景を見事に想起させてくれるんだな。

 

欲を言えば前作収録の超名曲「無情のスキャット」ほどのインパクトを持った楽曲が欲しかったというのがありますが(しいて挙げるならばM13)、まああのクラスの楽曲をポンポン量産できたらそれこそ異常ですし、さすがにそれは贅沢な物言いですかね。

 

なんにせよ、本作が人間椅子らしさを完璧に体現した、怖くも楽しいハードロックの名作であることに間違いはないです。

 

あと本作は1曲を除いて和嶋さんが作詞を担当していますが、ベースの鈴木さんが作詞をしている曲はブックレットを全く見なくても、聴いたら一発でわかりました(笑)

 

 

個人的に本作は

"ハードでおどろおどろしくも、どこかユーモラスで聴きやすい、安心安定の人間椅子流ハードロック"

という感じです。

 


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