ひとりごと ~Music & Life-Style~

HR/HMを中心としたCD感想、足を運んだライヴの感想をメインにひとりごとをブツブツつぶやくブログです。

ELLEGARDEN 『The End of Yesterday』

  • 16年ぶりに放つファン待望の新作
  • 疾走感、初聴時のインパクトはかなり薄め
  • 感情に寄り添い、じっくり染み渡る切なさが魅力

 

00年代の国内ロックシーンを牽引する存在であり、2018年に10年ぶりの電撃復活を遂げた、ELLEGARDENの6thフルアルバム。

 

本作は2006年に発表された5thフル『ELEVEN FIRE CRACKERS』より、なんと16年ぶりとなる新作。16年ですよ。当時生まれた赤ちゃんが、もう高校生になっているような期間。ファンの方にとっては、もう「待望」なんて言葉では片付かないでしょう。

 

僕としては、本格的に日本のロックバンドを聴き始めた時期と、彼らが活動休止をした時期がだいたい重なっているため、リアルタイムでは通っておらず、過去の音源を後追いで聴いてきています。

 

従来の彼らの音楽というのは一口にメロコア、ポップパンクと言い切れるようなものではなく、ソングライターの細美さんがweezerから影響を受けているのもあるのか、海外エモやパワーポップ的な要素もあります。

 

ストレートなメロコアを好んでいた僕としては、その点がやや中途半端な感じに映ってしまい、「好きな曲とそうでない曲の差が大きいバンド」という印象がついていました。好きは好きだけど、そこまで言うほどのファンではない、そんな温度感。

 

そんな僕でも、やはりレジェンド扱いされているようなバンドの音源をリアルタイムで購入できる、という事実にはどことなくワクワクさせられるものがあるのも事実。実際発売前は結構大きめの期待感を持っていました。

 

しかし、本作を一周聴いてみて、まず最初に思ったことは、「あれ?こんなもん...?」でした。正直なところ。

 

全体的にミドル〜アップテンポで展開される楽曲で占められており、スネア裏打ちの2ビートで疾走する曲は皆無。もともと疾走感を売りにしていたバンドではないとは思うんですが、それにしたって全体的に落ち着いている。パンク・メロコアに期待されるようなはっちゃけ感が無い。ちょっと地味な印象がついて回る作風だなと。

 

僕がELLEGARDENで好きな楽曲といえば、「モンスター」「Supernova」「Marie」「(Can't Remember) How We Used To Be」あたりの、アグレッションを活かしたサウンド。そうした溌剌としたエナジーが控えめな本作は、第一印象が良いとは言えない。「メンバーも歳を重ねて大人になったんだな〜」なんて思ってしまったり。

 

しかし聴いてくうちに、少しずつ各楽曲のメロディーが染みてくる。決して派手ではないけれど、やはり日本のバンドとしての叙情メロディーのセンスが息づいているのか、なんとも言えぬ哀愁が効いた歌メロが効いているのです。

 

ややシリアスさが強く海外ポップパンク的曲展開を見せるM2「Breathing」、ポップで青臭く、爽やかな中にホロリとするような叙情美メロが馴染んだM4「Strawberry Margarita」、軽やかなアップテンポのリズムに、本作でも1,2を争うほどキャッチーなサビメロを持ったM9「10am」など、パンク的攻撃性を控えめにしながらも、少しの哀愁と多幸感で包んでくれるような楽曲が揃っています。よく晴れた休日、本作を聴きながら外をあてもなく歩くと、かなり気持ち良くなれる気がする。

 

特にラストのM11「Goodbye Los Angeles」のメロディーは素晴らしいですね。郷愁を漂わせるような歌詞と合わせて、歪ませすぎないギターのポップなフレーズ、強烈に泣いてるわけではなく、じんわり染み渡らせるような切ない歌メロがバッチリとハマってます。これぞエモコアと言いたくなる。

 

過去の疾走曲のようなわかりやすいキラーチューンは不在で、その点を不満に感じなくはないのですが、こういう路線でもしっかり飽きずに聴かせてくれる手腕はさすが。何かが突出してるわけではないけど、全体通して手堅くしっかりまとまっている。

 

小さなライヴハウスでキッズたちを跳ね回らせるようなサウンドではなく、感情に寄り添い、日常生活と一体になってくれるサウンドトラック的な味わい深さが魅力のアルバムですね。

 

まあ上述した通りパンクらしい派手さも、キラーチューンも無いのは事実なので、バンド史上最高傑作かと言われれば「No」だとは思うんですけどね。個人的には楽しめる作品でした。

 

 

個人的に本作は

"パンク的な攻撃性、疾走感はほぼ無し。それに代わってエモコアらしい切ない叙情性が全編を覆う"

という感じです。

 


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新年のごあいさつ - 2022年ベスト

新年明けましておめでとうございます。

 

昨年は様々な大型フェスティバルがようやく開催しだして、海外アーティストの来日も続々と決定。海外と比べて大きく出遅れてはいるものの、少しずつライヴの醍醐味が復権しつつあるのを肌で感じましたね。

 

Download JapanにROCK IN JAPANは、久方ぶりにフェスとしての楽しさを感じましたし、それ以外にも、ロックレジェンドであるGUNS N' ROSES、国内パンクのデファクトスタンダードとも言えるELLEGARDENと、今まで観たことのなかった大物のライヴも体感できました。PassCodelynch.で2回も日本武道館へ行くなど、大会場でのライヴが充実していた印象です。

 

ただ、このブログに関しては、更新頻度がガクッと低下してしまいました...。理由は以前から何度も述べている通り、仕事で大きな案件が動いた関係で、忙しさが飛躍的に増してしまったため。家に帰るのは毎日夜遅くで、腰を落ち着けて音楽に浸れる時間がかなり制限されてしまっているので...

 

音楽に限らず、この2022年は異国の地で戦争が起こり、国際情勢の悪化による物価の高騰もあり、なかなか先行き不透明な時代となってきている感じでした。まあネガティヴなニュースが席巻するのは今年に限った話ではありませんが。

 

そして何より残念だったのは、遊戯王の作者・高橋和希先生の逝去ですね...。遊戯王バトルシティ編で一番盛り上がっていた時代に幼少期を過ごした者として、遊戯王という存在がいかに大きなものであったかは、僕と世代の近しい人であればわかっていただけるはず。改めて、心よりご冥福をお祈りいたします。

 

さらに終盤になってGAUZE解散のニュースがあったのも衝撃的でした。ジャパニーズハードコアを象徴するような偉大なバンド。バンドの性質・性格的にすんなり再結成するとは思えないだけに、ジャパコア界の大きな損失と言えましょう。

 

そんな年においても、最後の最後に映画スラムダンクで、これ以上ないほどの感動を得ることができたのはありがたかったな〜...。思い出すだけで涙がちょちょ切れそうだぜ。

 

さて、一年のスタートのお決まりとなってきている年間ベストアルバム&ベストソング、今年も選出してみました。結果としてはこんな感じです!

 

 

2022年ベストアルバム

第1位

LORNA SHORE 『Pain Remains』

デスコアという凶悪なジャンルを標榜し、その名に相応しい音を徹底的に奏でている。それなのに、感動的とすら言えるほど心を揺さぶる劇的なシンフォニックサウンドにより、音楽的な魅力を両立させることに成功した奇跡の一作。

 

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第2位

摩天楼オペラ 『真実を知っていく物語』

新たに強力なギタリストを得て、完全体となったオペラが放つ渾身の最高傑作。荘厳なクワイアと麗しく気高いメロディー、しなやかで力強く、美しいヴィジュアル系メタルがここにきてさらなる完成度へと至りました。

 

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第3位

KREATOR 『Hate Über Alles』

超名盤だった前作と比較すると、やや破壊力は落ちたかな?とはいえ、相変わらずメロディック・スラッシュとしての完成度はズバ抜けており、邪悪なオーラにゾクゾクしながら興奮できる。やはり彼らはハズさない!

 

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第4位

ARCH ENEMY 『Deceivers』

かつてのメロディックデスメタル然とした作風からは、やや趣を異にするからか、メロデスファンからの評価はさほどでもないかも。しかし、単純にアグレッシヴでカッコいいヘヴィメタルバンドとして、これだけのものを出してくれるのって相当強いですよ。

 

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第5位

TOBIAS SAMMET's AVANTASIA 『A Paranormal Evening With The Moonflower Society』

天才トビアス・サメットの作曲センスは枯れることを知らないのか...。どこを切ってもドラマチック&キャッチーなメロディーに彩られた、極上のメタルオペラが展開される大作。ゲストヴォーカルの適正に合わせた楽曲作りの妙が見事。

 

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第6位

VICTORIUS 『Dinosaur Warfare Pt. 2 The Great Ninja War』

彼らがネタ臭さ満載バンドになった記念すべきアルバムの第二弾!MVの世界観も歌詞も、すべて変わらず引き継がれていて、その時点で高評価してしまいたくなりますが(笑)、何よりも純粋にメロスピとして素晴らしい出来!

 

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第7位

NOCTURNAL BLOODLUST 『ARGOS』
ヴィジュアル系の鎧を脱ぎ捨て、メタルバンドとしてフラットになった彼らの8年ぶりの新作。凶悪なエクストリームメタルから、メロディックメタルコア、シンフォニックデスコアまで、今の自分たちでできるメタルをとことん追求してくれた。

 

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第8位

9mm Parabellum Bullet 『TIGHTROPE』

作詞卓郎さん・作曲滝さんというゴールデンコンビで引き続き制作された、記念すべき9作目。歌謡曲的ダサさは控えめではあるものの、メタリックでアグレッシヴな演奏に、従来作以上に哀愁を増した歌メロの絡み方が素晴らしい。

 

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第9位

STRATOVARIUS 『Survive』

北欧メロディックメタルシーンにおいて、押しも押されもせぬベテラン。もう彼らのアルバムは名作で当然って感じですよね。プログレッシヴな演奏を軸にしながら、小難しくならないキャッチーさを溶け込ませる手腕がこれ以上ないほど活きてます。

 

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第10位

Earthists. 『Have a Good Cult』

久々のフィジカルリリースとなった本作、過去作から飛躍的に歌メロの比重が増し、攻撃的ながらキャッチーさを演出するモダンメタルコアが完成。これまでの特徴であったアトモスフェリックな要素も引き継いでおり個性も充分。

 

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2022年ベストソング

第1位

「真っ白な闇がすべてを塗り替えても」 摩天楼オペラ

大手町の15周年ライヴで初めて聴いた瞬間から、名曲であることを確信させてくれた新たなるアンセム。切ないメロディーが力強く疾走する極上のメロスピ

 

 

 

第2位

「遠雷と君」 明日の叙景

ポストブラックメタルって、音楽的なキャッチーさを狙いにくいジャンルだと思うんですが、ポジティヴな泣きに満ち溢れたメロディーがここまで息づくとは。

 

 

 

第3位

「Empty Vessels」 Graupel

ロディックメタルコアをプレイさせて、彼ら以上のものを聴かせてくれるバンドってほとんどいないんじゃないか...。そんなことを思わせてくれる激情のナンバー。

 

 

 

第4位

「Hate Über Alles」 KREATOR

KREATORの王道を突っ走る、邪悪なスラッシュチューン。もう言葉はいりませんよ。このバンドの疾走曲は最強です。

 

 

 

第5位

「Feel What I Believe」 THE HALO EFFECT

この手のリードギターを弾かせたらイエスパーの右に出る者はいない。イントロが流れた瞬間、もうそこはイエテボリ

 

 

 

第6位

「My Life Without You」 dustbox

バンドサウンドも、ヴォーカルも、コーラスも、dustboxに期待される切なさが尋常ではない。アルバムの潮目を変える重要な役割を担っています。

 

 

 

第7位

「Darker Still」 Parkway Drive

イントロの時点から、ただのモダンなグルーヴメタルとは一線を画していることがわかります。徐々にスケールを増していく曲展開がドラマチック!

 

 

 

第8位

「Handshake With Hell」 ARCH ENEMY

ARCH ENEMYらしい曲とは言い難いかもしれませんが、この曲が持つダイナミズムはヘヴィメタルとして普遍的なカッコよさを持っていると思います。

 

 

 

第9位

Becøme The Firestørm」 MACHINE HEAD

ミシンの如き爆速ドラムに暴れ狂うギター、粗暴なヴォーカルが濁流のように押し寄せる轟音疾走曲。みんなでタイトルを叫び狂いたい。

 

 

 

第10位

「Glory Days」 STRATOVARIUS

今どき珍しいほどの王道キラキラ北欧メロスピ!結局なんだかんだ言って、みんなこういうのが好きなんでしょ?俺もだよ。

 

 

 

2022年を終えてみて

個人的な話になり恐縮ですが、とにかく今年は仕事がキツかった...。ブログの更新ペースがガクッと落ちて、アルバム1枚を聴き込む時間も短くなりましたし...。上記のランキングももっと新譜の聴き込みが深まれば、また違ったものになっていたかもしれません。

 

とはいえ、選出したアルバム・楽曲は本当にどれも大好きなものですし、現時点の僕の感覚として嘘偽りのないものにはなっていますよ。

 

ベスト10にこそ入らなかったものの、その他に特に気に入っている作品としては、以下のものがありました。

 

DIR EN GREYPHALARIS

dustbox 『Intergalactic』

MACHINE HEAD 『Øf Kingdøm And Crøwn』

MEGADETH 『The Sick, The Dying... And The Dead!』

Sabaton 『The War To End All Wars』

THOUSAND EYES 『BETRAYER』

TYMO 『The Art Of A Maniac』

 

こうしてみると、エクストリームメタルの作品に良質なものが多かった印象ですね。ベテラン・若手、邦洋問わず良作が並んでいて、例年に負けず充実していたと思います。

 

中でも1位のLORNA SHOREですね。これはスゴかった。去年の上半期が過ぎた頃には、「よっぽどの名盤が出ないことには、摩天楼オペラの新作が1位になるだろうな〜」と思っていましたが、これほどまでの強力盤が生まれるとは思いもしてませんでした。

 

ベストチューンは、もう単純に気に入った楽曲を各アーティストから一つずつ選出したって感じ。1位については、最初ライヴで聴いた瞬間からのインパクトで勝負ありって感じでした。2位の明日の叙景に関しても、初めて聴いた驚きは大きかったですね。

 

なお、LORNA SHOREの楽曲としての「Pain Remains」3部作については、3曲合わせてひとつの楽曲として考えることができますが、20分以上の怪物級楽曲を入れてしまったら圧倒的1位になることは目に見えており、かといってこの3曲をバラして考えるのもどうかな〜と悩んだ結果、今回はベストチューンの候補からは外しました。もし3曲バラした上でランクインさせるとするなら「Pain Remains II: After All I've Done, I'll Disappear」を2位に入れてました。

 

来年は見えている範囲ですと、1月のTwilight Force、2月のIN FLAMES、3月のBABYMETALあたりが注目の新作。ライヴではなんと行ってもPANTERAがヘッドライナーを務めるLOUD PARKが最大のトピックですよね。MY CHEMICAL ROMANCEが来るPUNKSPRINGも注目してます。海外アーティストの来日がこれから少しずつ盛んになってくれるとありがたいですね。

 

そして何より、仕事が少し落ち着くと嬉しいんだがな......

 

今年でこのブログも丸7年、ちょいちょい覗きに来てくれる人も増えているようで嬉しい限りです。続けられる限りは続けていきますので、どうぞ本年もよろしくお願いいたします。

Pay money To my Pain 『Another day comes』

  • ニューメタル、ハードコアらしいヘヴィさと疾走が魅力
  • 前半疾風怒濤、後半は一気にスローダウン
  • 大きなスケールを放つキラー・タイトルトラック

 

今から10年前の2012年12月30日、国産オルタナティヴロック/メタルバンド・Pay money To my PainのヴォーカリストKさんが、急性心不全により若干31歳でこの世をさりました。

 

そのニュースを目にしたときの衝撃は今でも覚えています。公式サイト上では他PTPメンバー3人からの悲しみ、そして彼への愛が込められたメッセージが掲載されていました。

 

その後も親交のあった多くのバンドマンや音楽関係者からのメッセージが寄せられ、本当に多くの人達から愛され、リスペクトされていた人だったんだと改めて思わされました。

 

今更言うまでもないとは思いますが、Pay money To my Pain(略称PTP)とは、元GUNDOGのヴォーカルKさんを中心に2004年に結成された、4人組(結成当初は5人)バンド。00年代後半〜10年代前半に日本のバンドシーンを見ていたなら、ほとんどの人が知っているはず。

 

彼らが活躍してた時期は、僕の中高生の頃と完全に被っていました。メタルのようなヘヴィサウンドをまださほど知らず、パンク・メロコア系統にハマっていたので、彼らの活動をしっかりと追っていたわけではありません。しかしバンド音楽にハマり始めたときだったので、今以上に熱心に「カッコいいバンドはいないのか」とアンテナを高く張っている時期でもあり、当然ながら彼らの存在は認知していて、MVの楽曲などは聴いていました。

 

ある程度年齢を重ねたレジェンドだったり、大御所になったミュージシャンが亡くなったというのであれば、ある程度仕方がないと割り切ることもできますし、そもそも自分とはまったく世代が異なる人達なので、そこまで大きな衝撃は受けなかったでしょう。

 

しかし彼は31歳と言う若さで、しかも現在進行系でアルバムを出しライヴもしている、現役バリバリのバンドマン。「自分の時代のバンドのフロントマンが死ぬ」という現実は思った以上に衝撃的だったのです。

 

あの知らせを受けてからもう10年も経ったのか...と、先日ちょっと感傷的な気分にもなり(正確にはニュースは2013年に出たものですが)、ここ最近は彼らが残した名盤1st『Another day comes』をよく聴いていました。

 

PTPは後期になると、比較的歌メロに比重を置いたポップ寄りの楽曲の存在感が増していた印象ですが、本作は1stフルということもあってか、後期ほどの引き出しは多くない。彼らの影響元であるニューメタルや、ニュースクールハードコア的なヘヴィさがかなり色濃く出ている。

 

アルバム前半はそんな彼らの直情的な勢いが全開となり、ヘヴィリフとシャウトの応酬でハードコア的なアグレッションを見せつけながら、サビになると非常にメロディアスな歌で魅了するM2「Paralyzed ocean」からノンストップで突き進む。

 

ニューメタルらしい弾むような縦ノリヘヴィリフが気持ちいいM3「Unforgettable past」に、のっけからタカが外れたような爆走を見せつつ、中盤にはスローなヘヴィパートも挟むM4「Lose your own」、ブラストビートばりの怒涛のドラムからダークに突っ走り、シンガロングパートも取り入れたショートチューンM6「The sun, love and myself」と、この前半の勢いたるやすさまじいものがある。

 

この90年代のニューメタル/ハードコアを彷彿させるヘヴィサウンドに、刺々しいシャウトも、抜群の表現力を誇るクリーンヴォイスも、どちらも様になるKさんの素晴らしいヴォーカルワークが噛み合うことで、初期PTPならではの音楽が体現されています。

 

ただ、M6を過ぎてしまうとそこからはインストを挟んで、あとはスローテンポの曲が並ぶというアルバム構成となっており、後半の勢いが沈静化されてしまう造りになっているのが惜しいところですかね。後半も曲単体で聴けば良質なんですが、こうも固まってしまうとね。前半の勢いがすさまじかっただけに、その落差も大きくなってしまう。せめて後半にもう1曲激しい曲が欲しかった。

 

まあ、アルバム全体通して9曲30分というコンパクトさなので、ダレを生むことなく聴き通すことはできます。

 

そんな本作、1曲キラーチューンを挙げるとするなら、やはりオープニングを飾るタイトルトラックM1「Another day comes」でしょうか。この曲の存在感はやはり別物ですね。Kさんの激情を込めたヴォーカルがサビに載る様は、いつ聴いても込み上げるものがある。決して疾走感があるタイプの曲ではないのですが、もの悲しくも爆発力あるサビのスケールは素晴らしいの一言。「From here to somewhere」と並ぶ、初期PTPを代表する楽曲と言えます。

 

後半グッと勢いが落ちてしまう構成こそ若干疑問ながら(ラスト作となった「gene」もそんな感じだったから、これが彼らのスタイルなのかも)、90年代型ヘヴィネスと抜群の存在感を放つカリスマヴォーカルが組み合わさった充実作。

 

今日本にはメジャーシーンのラウドロックに、ややアンダーグラウンドメタルコアまで、クオリティーの高いバンドがたくさんいますが、本作がリリースされたのは2007年。

 

まだ今ほどヘヴィミュージックが潤沢ではなかったはずですが、その時点でこれだけ本格的な音楽が作れたバンド、もしKさんが生きていて今でもバンドが続いていたら、どんなアルバムを出していたのかな...と、考えても意味のないことが頭によぎってしまいます。

 

 

個人的に本作は

"90年代型のニューメタル/ハードコアと、極上のヴォーカルパフォーマンスが合わさったオルタナティヴメタル。アルバム前半のハードチューンの勢いが圧倒的"

という感じです。

 


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WORLD END MAN 『SUFFER LEADER』

  • モダンさやハードコアテイストも味方にした"Nu-Deathmetal"
  • 聴きやすくも残虐非道なデスメタルらしさはバッチリ残存
  • ブルータルとキャッチーは両立できる

 

デスメタルの本場・アメリカでのバンド経験を持つ実力派ヴォーカルKiyoさんを中心に結成され、来年にはインドネシアのメタルフェス、さらにはアジアツアーも決まっている国産デスメタルバンドの最右翼WORLD END MAN。

 

彼らの前作から4年ぶりとなる最新2ndフルアルバム。まず最初に言っておきますが、かなりの強力作ですよこれは。

 

前作『USE MY KNIFE』は、30分弱の短い時間内にヘヴィで残虐、それなのにリフ重視のメタルとしてのカッコ良さも担保された充実作でした。そのため、メロディック要素のないデスメタルはほとんど聴いていない僕ですが、本作への期待値は高かった。

 

 

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そして本作は、そんなリリース前の期待にしっかりと応えてくれた力作だと言えます。前作で提示された「容赦無しにブルータル、それなのに不思議と聴きやすい」という奇跡のバランスを完璧に体現している。

 

ヴォーカル含め曲のスタイルは完璧にデスメタル。それも強烈に残虐でグロテスクなやつ。人外レベルのフルブラスト系爆走パートはあまりなく、ヘヴィなリズム落ちと疾走メタルの範疇に収まる程度のスピード感が主。このあたりの音作りのおかげで、昨今のエクストリームメタルにありがちな無機質さは感じられない。生々しい人間味を帯びている印象。

 

そんなガチのデスメタルに、本作はグルーヴィという形容が似合いそうなヘヴィリフ、それもHATEBREEDあたりのニュースクールハードコア(死語?)にも通じるような、ガッチリとタイトにまとまったリフが大幅導入されているのがクール。M3「Breathless」や、M9「Whore Mutilation」あたりとかが特にわかりやすいですね。

 

これのおかげで必要以上にドロドログチャグチャせず、純粋なヘヴィミュージックとしての魅力が浮き彫りになっている。落とすところはとことんヘヴィに、速いところとことんファストに刻まれる、切れ味鋭い重音リフの聴きごたえが抜群です。

 

自身の音楽性を"Nu-Deathmetal"と表しているようで、「なるほど!」と膝を打ちましたね。このバッキングのサウンドのヘヴィでクリア、ズンズンとリズミカルに響きゆく様は、確かにどこかニューメタルにも通じるような雰囲気があります。

 

このモダンさやハードコアテイストを含んだバンドサウンドのおかげで、アンダーグラウドなムードが必要以上に深くならず(もちろんそれが無くなることはない)、ある種「キャッチー」と呼びたくなる聴きやすさを演出することに成功しています。残虐なデスメタルらしさは損なわれていないというのに。本当にこのバンドの作曲面のセンスはすごい。もっとメタルシーンで評価されていい。

 

これだけサウンドの完成度が高くなると、本当にアングラなデスメタルを愛好する人たちからは「ケッ、デスメタルのクセにリフが綺麗すぎるんだよ」とか文句言われたりしないだろうか(笑) そんな輩をねじ伏せるだけのパワーがあるとは思いますけどね。

 

ピックスクラッチから爆速で展開し、容赦なき猪突猛進っぷりを聴かせつつも、ガッツリとリズムを落としたヘヴィパートもきちんと用意されたM2「Dance Under The Noose」を筆頭に、思わず頭を振りたくなる中毒性とノリの良さを秘めたリフが魅力のM4「Never Learn」、強烈な重低音を効かせたザクザクのリフがメチャクチャに気持ちよく、ハードコア的シンガロングも誘発できるヴォーカルパートも備えたM7「Unnecessaries」など、どの楽曲もWORLD END MANらしい魅力に満ちている。

 

メロディックデスメタル以外のデスメタルはほとんど聴かないデスメタルビギナーな僕ですが、そんな僕でも本作に込められた音のクールさはわかる。ベーシストのHiroshiさんはTwitterにて「ブルータルとキャッチーは両立出来る!と恋と仕事の両立ばりの難題こなしてしまいました」と述べていましたが、マジでその言葉通り、そのまんまな音でした。

 

デスメタルというジャンルに苦手意識を持っている人たち、ぜひ本作を聴いてみてほしいです。「こんな音あるんだ!?」と、きっと衝撃走りますよ。

 

 

個人的に本作は

"持ち前の楽曲作りのセンスがさらに進化した、ブルータル&グルーヴィー&キャッチーなデスメタル。超エグいのに超聴きやすい奇跡のバランス"

という感じです。

 


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Slipknot 『The End, So Far』

  • スロー/ミドル曲の存在感は過去作一の異色作
  • どんな楽曲でも変わらずSlipknotらしさは一貫
  • やっぱりエクストリームナンバーの安定感が頼もしい

 

現代ヘヴィメタル界のトップをひた走り、来年にはKNOT FESTでの来日も予定している、9人組エクストリームメタルバンド・Slipknotの7thフルアルバム。

 

もう彼らもデビューアルバムをリリースしてから23年もの年月が経ったんですね。とても大衆ウケしそうにないサウンドを提示してから、やや音楽性を軟化させてはいるものの、「不気味なマスクを被り、ヘヴィで激しいメタルをプレイする」という基本線は、これまでまったくもってブレていない。

 

もちろん本作においても、かつての作品の内容を踏襲したアルバムには仕上がっていて、Slipknotらしさをしっかりと感じることができる。できるんですが...

 

ちょっと本作は過去作とは少々様相が異なる点も多く散見されるのです。それが、ダークで重苦しくも、ゆったりとしたテンポで進みゆくスロー/ミドル曲の存在が大きいこと。

 

もちろんメンバーも年齢は重ねるもの。メンバーみんな50手前くらいまで来ているし(ショーン・クラハンに至っては50過ぎ)、いつまでも狂気的で激しい楽曲を満足にプレイすることは難しいことは明白。大人になっていくことで、音楽的な趣向も成熟してくるという影響もあるのかもしれません。

 

オープニングとエンディングを飾るM1「Adderall」、M12「Finale」の2曲は、ゴシックロック的ムードを醸し出す淡々とした楽曲で、M12に至っては最後に美麗なコーラスが流れる。

 

他にもコリィのシリアスな歌い出しから、シャウトが支配的なサビになるまでずっと重々しいM4「Yen」や、ヘヴィリフと極悪なシャウトに、もの悲しさを押し出す歌メロの交錯が聴けるM7「Medicine For The Dead」、強烈な哀愁バリバリのイントロに、力強いパーカッションがインパクトを放ち、ズルズルと引きずるような退廃的暗さがやまないM8「Acidic」など、スロー曲の存在感が従来作に比べかなり大きくなっているのが特徴。

 

まあ前作『We Are Not Your Kind』も、後半においてスロー曲の主張が強くはあったんですが、本作は頭とお尻がこういった曲調なので、そこで印象が決定づけられるというのが大きいかもしれない。

 

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Slipknotというバンドには、やはり強烈無比な怒り狂うエクストリームメタルが望まれてるはずで、こういった方向性はあまり歓迎されないかもしれず、正直なところ僕も本作を「すごい!これは彼らの最高傑作だ!」と言うつもりはありません。むしろ彼らが出してきたアルバム群の中では地味な部類に属する作品かもしれません。そういう意味で、特に賛否が割れやすいでしょうね。

 

それでも、スローな楽曲においても一貫して彼ららしい不穏さ、ダークさ、大衆に媚びていかない負の感情がしっかりと息づいているのは素晴らしいですね。アルバムのどの瞬間においても「Slipknotを聴いてる」とわかるバンドの個性が備わっている。

 

そしてアグレッシヴなメタルナンバーの完成度はさすがの一言。M2「The Dying Song (Time To Sing)」、M3「The Chapeltown Rag」は、コリィの見事な歌唱力を生かしたメロディアスなサビ、ターンテーブルやカンカン言う特徴的なパーカッション、音こそ軽めながら、尋常ならざる手数で叩き込まれるドラムと、Slipknotの要素を全部盛りにしたかのようなキラーチューン。

 

この2曲の並びだけで「Slipknot is Slipknot」を実感させてくれるのが心強く、マシンガンのような早口ヴォーカル(これをデスヴォイスでやってのけるコリィの能力の高さがすごい)が、絶大なインパクトと勢いを持つM10「H377」も良いですね。

 

これまでの作風に比べ、怒り狂う勢いでひたすらに圧す、という側面が縮小されてしまったのは確か。それでも、バンドが20年以上積み重ねて表現してきた個性や、ネガティヴな感情をそのまま吐き出したかのようなサウンドにはブレることがない。

 

あと内容とは関係なく気になるところですが、アルバムタイトルと最後の曲名で、どうにも終わりを連想させてしまう作品ではある。今後はどうなるのだろうか...

 

 

個人的に本作は

"Slipknotらしいエクストリームメタルとともに、バンドの成熟を表すスロー曲の存在も大きくなった一枚。バンドらしさは健在だが賛否別れやすいかも"

という感じです。

 


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映画『THE FIRST SLAM DUNK』 リアルな動きで描かれる劇的な試合に感動の涙

スラムダンクが映画化される。

そのニュースを聞いてから、どれだけその日を待ち望んだでしょうか。

 

 

スラムダンク

もはや説明不要の作品だとは思いますが、軽く紹介すると、1990年から1996年にかけて週刊少年ジャンプにて連載された、高校バスケットボールを題材とした少年漫画作品。

 

コミックスの発行部数は1億を超え、90年代のジャンプ黄金期を『ドラゴンボール』『幽遊白書』と共に彩った、国民的人気作です。

 

このブログでも何度か書いたことありますけど、僕は学生時代にバスケをやってまして、当然ながらスラムダンクは愛読していました。そりゃあもう夢中になって読んでました。94年生まれの自分は本来まったくもって世代ではなく、むしろ『黒子のバスケ』世代のはずなんですが、僕の中では「バスケ漫画 = スラムダンク」の図式が完全に成立していたのです。

 

チームメイトもみんながみんな愛好しており、バスケットプレイヤーなら知ってて当たり前、好きで当たり前の偉大なる存在。僕の青春時代において大きなウエイトを占めている、目と心に幾度となく叩き込んできた作品なのです。

 

そんな作品が映画化される。リアルタイムで新作が見られる。こんなことが起こるのかと。

 

映画公開前には、テレビアニメ版とは異なるキャストが発表されて色々文句を言われていたようですが(笑)、僕は原作ファンであり、アニメは通ってきていないので特に不満はない。むしろ必要以上に既存ファンに媚びたり、変に懐古的になりすぎておらず、今できる新たな形で制作しようという意図が感じられて、好感すら持てたくらい。

 

とはいえ、期待感が溢れる反面、やっぱり不安もあったわけです。

 

先ほど「懐古的でなくて好感持てる」と述べたばかりでこんなことを書くのもアレですが、昨今のアニメのような味付けが施されて、当時の原作が持つ空気感が損なわれてしまったりしないか、とかはやっぱり気になってしまう(と言っても僕は中学入学あたりからアニメはほぼ見なくなってしまったので、最近のアニメについては全く知らず、偉そうなことは言えないのですが...)

 

それにお話の内容がどうなるのか。桜木がリハビリを終えて、バスケ部に復帰するアフターストーリーとなるのか。それとも、晴子との出会いのところから、陵南との練習試合くらいまで描くのか。中盤の大きな盛り上がりとなる、神奈川県IH予選の試合が展開されるのか。どっからどこまでを、どのように一本の映画としてまとめるのか。それによってお話の面白さも変わってくるはず(もちろんどこを切っても面白いエピソードばかりなんですけどね)

 

さらにさらに、90年代の連載時と現在においてバスケットボールは、前後半の時間の区切り方、ジャンプボールシチュエーションのボールポゼッション、さらにはコートの形状に至るまで、かなりルールが異なっているが、あの時のままのバスケになるのか、それとも2022年現在のルールでフルリメイクするのか、その辺の線引きはちゃんとされるのか、とかね。

 

しかも監督・脚本は、原作者である井上雄彦先生自らが担当しているということで、どうあってもこれが正式なスラムダンクとなる。大好きで、大好きで、大好きな作品だけに、映画を見てガッカリするようなことだけは、何としてもあってはならない。

 

大きな期待と少しの不安。それを胸に抱きながら12月3日、公開初日に映画館へと足を運びました......

 

 

 

 

 

結論から言うと、泣いた。

 

いや、今まで映画を見て感動したり、「良い話だな〜」と胸を熱くしたりといった経験は少なからずあるんですよ。

 

しかし、大袈裟でもなんでもなく、熱でも出たんじゃないかと思うくらい体が熱くなって、実際に落涙までしてしまったのは、本当に初めての経験(小さい頃にホラー映画を見て泣いた時を除く/笑) まさか映画で、それも結末を知っているお話でこうも感情が動かされるのかと。自分でも驚きました。

 

どうやってこの感情を文章にできるのかがわからないのですが、何とかしてこれから順を追って、映画の感想文を仕上げていきたいと思います。

 

注意!

これから映画本編の内容について思いっきり突っ込んで感想を書いていきます。未見の方はネタバレになりますので、ここから先はブラウザバックでお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレになりますよ?いいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よし。

 

 

 

 

冒頭、沖縄の海が見えるバスケットコート。二人の兄弟が1ON1に取り組んでいる。当時9歳の宮城リョータ、そしてその3つ上の兄、宮城ソータ。

 

宮城家では早くに父親を亡くしており、嘆き悲しむリョータたちの母親・宮城カオルを支えるために、ソータは「俺がこの家のキャプテン、そしてお前が副キャプテンだ」とリョータに言い聞かせていた。

 

ソータは地元のミニバスにおいて名選手として活躍しており、チームの優勝に大きく貢献し、最優秀選手賞を何度ももらうほど。そんな兄にリョータは幼い頃からバスケットを教わってきていた。

 

もう一度1ON1をやろうとせがむリョータだが、友達と海釣りの約束をしてたソータは「もっとドリブルの練習しろよ」とリョータに言い残し、船に乗って沖まで行ってしまうことに。約束を反故にされたと感じたリョータは泣きじゃくりながら「もう帰ってくるな!」と吐き捨ててしまう。

 

そして皮肉にも、リョータの言葉通り、ソータは帰ってこなくなってしまう。釣りに行ったまま水難事故に遭遇し、帰らぬ人となってしまうからだ。

 

そんな導入部を経て、舞台は7年後の広島。高校バスケットボールインターハイの2回戦。神奈川県代表・湘北高校秋田県代表・山王工業高校の試合が今まさに始まろうとしていた。

 

そう、今回の映画の主役は、本来の主役である桜木花道ではなく、宮城リョータ。そして描かれるのは、スラムダンクの全試合の中でも最高峰の試合といえる山王戦。まずここで、なるほどそうきたか!と。

 

と言うのも、原作を読んでいた人ならわかってもらえると思うのですが、クライマックスの山王戦において湘北スタメン5人のうち、最もクローズアップされる機会に恵まれていなかった(と僕は感じている)のがリョータだったからですね。

 

キャプテンの赤木は、かつてのチームメイトからあまりのストイックさに煙たがれていた過去から、一緒に戦えるチームメイトを得ることができた現在までの想いが綴られているし、三井は「もうオレにはリングしか見えねえ」「静かにしろい この音が......オレを甦らせる 何度でもよ」に代表される、あまりにもカッコ良すぎるシーンのオンパレード。

 

流川は沢北との1ON1で叩きのめされながらも、最大のライバル・仙道との勝負を通して得たパスという選択肢を武器に、高校No.1プレイヤーの沢北と同等とも言えるような覚醒を見せる。

 

そして桜木は言わずもがな。圧倒的身体能力を活かしたリバウンドで、満身創痍の湘北に攻撃のリズムをもたらし、追い上げの切り札として躍動。さらには後半の決死のルーズボールで、選手生命に関わるほどの怪我を負いながらも、懸命なプレイと逆転の合宿シュートで試合を締め括った。

 

こんな風に、湘北メンバー各人は山王戦において大きな見せ場を持っているのですが、そんな中リョータだけやや控えめな活躍と言わざるを得ない。もちろん安西先生から「湘北の切り込み隊長」と称され、ゾーンプレスを破るきっかけになったり、彩子から「No.1ガード」の称号を渡されたりといった場面もあるにはあるんですが。

 

映画パンフレットにおいても、監督である井上先生は宮城を主人公とした狙いとして、こんな風に述べていました。

 

リョータは連載中に、もっと描きたいキャラクターでもありました。3年生はゴリが中心にいて、三井にもドラマがあるし、桜木と流川は1年生のライバル同士。2年生のリョータは間に挟まれていた。そこで今回はリョータを描くことにしました。

 

原作においてはやや描写が(他メンバーに比べて)不足していたリョータを、ここにきて主役へと抜擢する。斬新だとは思いましたが、納得感のある人選でした。漫画をそのまんま映像化するのでは(それはそれでメチャクチャ面白いでしょうが)、意外性や新鮮味はあまりありませんからね。

 

本作は、山王戦を比較的忠実になぞりつつ、合間にリョータの回想エピソードを挿入していく作りになっている。

 

オープニングテーマとなるThe Birthdayの楽曲に合わせて、徐々に鉛筆画で描かれている湘北メンバー。ゆっくりと画面手前に歩いてきて、ぎらりとした目つきで正面を睨み付ける様が実にカッコいい。会場の9割が山王ファンであるが故に、悪者になった彼らに、チバユウスケさんのしわがれまくった声質がマッチしている。

 

そして相対する山王工業のメンバーも描かれ、コート中央に10人が集まりTIP OFF。コートの形状とオフェンス時間が30秒であることで、この作品が2022年現在の世界観ではなく、純粋に当時の山王戦を描いたものだとわかる。

 

試合が始まって、まず驚かされたのが、3Dモデルによるキャラクターの動き方です。「うわ!バスケットボールの試合を見てる!」という衝撃。

 

「バスケのアニメなんだから当たり前だろ」と思うかもしれませんが、本当に現実のバスケットの動きを、かなり忠実に再現し、落とし込めてるんですよ。シュートモーションやフォロースルー、パスキャッチ時のミートの仕方や、ステップの踏み方、ダンクを叩き込んだ後の体の揺れ動きなど。

 

映画制作にあたって、まずスタッフでバスケットボールの練習を実際にやってみたというだけあり、各キャラクターの動きが現実のバスケの動きをかなり高レベルで再現して、本当に試合観戦をしているかのような臨場感を味わえることにまず感動。

 

これからディフェンスをする際に、一旦フロアを両手で叩き、腰を落とす体勢になるところとか、パスをキャッチする際に左ウィングあたりの位置で、左足・右足の順にストライドステップを踏んでシュートに入ったりとかは、学生時代の部活でしこたま練習でやってきた動きなだけに、メチャクチャ懐かしい気持ちになる(笑)

 

さらにダメ押しとばかりに、山王サイドのベンチ入りできなかった部員たちの応援ですよ。「一本!そーれ一本!」「いいぞ!いいぞ!深津!いいぞいいぞ深津〜!!」の掛け声を聞いた瞬間、「うわ〜〜〜!懐かしい!この声出しやったわ〜〜〜!!」と、本筋とは関係ないところで、すでに脳汁が出まくっていました。

 

そんな流れるような試合の最中、しばしば原作と全く同じフォームのプレイとかまで出てくるものですから、原作で読んだ圧巻のプレイが、そのままリアルな試合として描写されているのです。これを見て興奮しない訳がない。

 

そのまま前半をかなり早い段階で終えて、怒涛の後半へと突入していく。ここからまたリョータの過去の描写が増えていく。

 

亡くなった兄との一番の繋がりであったバスケットボールを、兄と同じ7番をつけて続けるリョータ。しかし相手チームからは「お前の兄ちゃんと試合したことあるけど、弟は大したことないな」と言われ、観戦していた大人たちからも「やはり兄のようにはいかないな...」と評価される。

 

母であるカオルは、悲しみを全くもって拭うことができず、思い出してしまわぬように、ソータの部屋に飾っているトロフィーやユニフォームを片付け、この家からも引っ越そうと言い出す。

 

しかしリョータは「兄弟だからって同じ番号にすることないよね!」という母の言葉に反発するように「7番がいい」と言い切り、兄の番号を背負ってバスケを続ける道を選び続けた。ここで母とぶつかり合い、カオルとリョータの仲がこじれていってしまうことに。

 

僕は家庭を持っていないので、このシーンはどうしてもリョータに肩入れしたくなってしまうものですが、逆に息子がいるような人たちからすると、カオルの心情に共鳴する人の方が多くなったりするのかなー...と思っていました。

 

中1からは現在も住んでいる神奈川に引っ越し、新しい学校生活が始まるものの、初っ端から近づくなオーラバリバリの無愛想な挨拶をかますことで、新しいクラスメイトからの心象は最悪。不良っぽい連中からは暴力を受け、バスケ仲間もできず、孤立した生活を送ることとなる(とはいえ現在もチームメイトである安田とは同じ中学のため、どこかで仲良くなったはずなのですが)

 

高校に入学してからも、彼の抱える行き詰まり感は解消されることはない。カタブツの赤木とは相性が悪く、試合には出してもらえない。「そこでパス出せるだろ!オレを出せよ...!」とベンチで文句を口にしながら、3年生の引退試合を観戦するリョータ。イライラが抑えきれない。

 

なお、この試合が終わったあとの控室にて、負けたというのに平気な顔をしている3年生が、後輩たちに対して「カタブツと問題児、うまくいくわけねえよな?おまえ(宮城)は夏までもたねえな」と言い捨てた際に、赤木が「宮城はパスができます」と、毅然とした態度で言うシーンがあり、リョータが赤木のことを「赤木のダンナ」と呼び慕うようになったのは、この頃からなのかなと思いました。

 

そして、原作でも少し描かれた三井たち不良グループに屋上に絡まれる場面。恐怖で手が震えながらも、「不良漫画かよ。ホントにあんだ、こういうの」と、笑っている。兄ソータの教えである「心臓バクバクでも、一生懸命平気なフリをする」を守っているのかのよう。

 

三井たち不良グループがリョータを襲った理由として、原作では彩子が「バスケ部期待の新人だったからではないか」と、想像するだけにとどめていましたが、この映画ではバスケに対して希望を失っている三井が、期待の新人であるリョータにからかわれることでリンチを提案したり(堀田は単に生意気だから潰そうというくらいにしか考えていなかったと思われる)、カバンからこぼれたリョータのバッシュを、憎らしくも憂いを秘めた表情で見下ろしたあとに蹴飛ばしたりしていて、彩子の想像通りであったことが読み取れるようになっています。

 

多勢に無勢なままボコボコにされるリョータ。原作では、このまま三井とともに入院生活を送ることになるのですが、本作はやや異なっており、顔中に血を流しながらも自力で帰宅。その後、半ば自暴自棄に陥ったかのようにバイクを猛スピードで飛ばして大事故を起こして入院、という流れになっていました。

 

ソータとのつながりであるバスケットボールをずっと続けてはいるものの、部には馴染めず、試合にも出られず、さらに不良たちからは因縁をつけられ...と、まったくもってうまくいかない。さらには母親との関係性も改善されることがない。何もかもが嫌になって自暴自棄に陥ったかのような描写で、どことなくアメリカ留学に失敗し、バスケをやめて激突事故を起こした矢沢を彷彿とさせる一幕でした。

 

事故の瞬間、故郷である沖縄の景色が浮かんだリョータ(走馬灯的な何かかもしれない)。その風景に吸い寄せられるかのうように、退院後に一人で幼い頃過ごした自宅、学校、バスケットコート、そしてソータと過ごした海辺の秘密基地へ。こういうふうに、ちっちゃい頃過ごした場所を見て回るの、ノスタルジーがすごそうだな...。今度休みとれたら札幌帰ろうかな。

 

秘密基地にて、幼い頃使っていた埃被ったボールと、「最強山王」の文字が踊る月刊バスケットボール(原作に出てきた、赤木が初めて買ったもとの同じ表紙)

 

そこにはかつて、「山王に入るの?ソーちゃん?」とリョータに聞かれた際に、「どうせならこっちだろ!」とソータが黒マジックで書いた「(最強山王)に勝つ!」という手書き文字があった。ソータは沖縄代表として、インターハイに出場し、打倒山王を夢見ていた。

 

「ごめんソーちゃん...俺、母ちゃんを困らせてばっかりだ...」とつぶやくリョータ。ソータの志、それに比べて何もうまくいっていない自分の境遇、家族の関係など、現状の自分への不甲斐なさがここにきて爆発し、大粒の涙を流しながら叫び続けた。

 

そうして自分の中に溜まった負の感情を全て発散することができたのか、泣き止んだリョータの顔は憑き物が取れたかのような表情に(この時の顔がメチャクチャに良い)。すっかり古びてしぼんでいた、かつてのバスケットボールを使ってドリブル練習。海辺の砂浜に足を取られながらシャトルラン。完全にバスケへかける気持ちを取り戻した。

 

原作では復帰したばかりの安田との1ON1で、「全然衰えてないじゃないか!」と驚かれていましたが、その理由は退院して学校に来ない間に、こうやって自主練を重ねていたからなのかもな...と思いました。

 

こういった過去描写を挟んでからは、いよいよ試合の方も佳境へ。フラフラになりながらも決死のスリーポイントを放ち続ける三井、かつてチームメイトから煙たがられてばかりだったが、今は頼れる仲間たちとバスケができている喜びを噛み締める赤木、バスケかぶれの常識は通用せず、最強山王からことごとくリバウンドを奪う桜木、高校No.1プレイヤー・沢北に打ちのめされながらも、パスという選択肢を得てチームを復活させゆく流川と、各メンバーへの活躍を描きながらの最終局面。

 

このあたりは何度原作を読んでも胸の奥が熱くなる瞬間のオンパレードですが、今回はリョータの家庭によるエピソードが追加されているため、「こんなでけーのに阻まれてどーする...ドリブルこそチビの生きる道なんだよ!!」のところが熱い。超熱い。

 

ソータを喪った悲しみを引きずるカオルは、リョータが7番をつけてバスケットをする姿を見るのが辛かった。そのせいで小学生時代のリョータの試合を観終わったあと、リョータの意向を無視するかのように、ソータの遺品を片付けてしまった。

 

それでも、リョータに一度も「バスケを辞めろ」とは言わなかった。

 

それについての感謝の言葉を、広島に行く前日の夜に書かれたリョータからの手紙を読んで受け取ったカオルは、会場まで駆けつける。本来はソータが立つはずだった舞台で、リョータが山王と戦っている。そんなリョータを見つめながら、カオルは「行けっ!」と心中でつぶやいた。

 

その流れからのリョータの低いドリブルによる突破、カオルの後押しを受けたかのように躍動するリョータの姿。これまでの回想を全て咀嚼し、すかさずかかるテーマソングの「第ゼロ感」を聴いた状態で見たこの場面は、本当に感情が爆発してしまっていて、体は熱を帯び眼球が潤んで仕方なかった。完全に落涙まで行きましたとも。

 

激動のラストはBGMも効果音もほぼ無く、心臓の鼓動と残り時間を刻む時計の音のみがこだまする。この辺の緊迫感たるや凄まじく、既に原作で結果を脳まで刻み込んでいるというのに、まるで初めて観る試合のようなドキドキが味わえます(ちなみにこの演出を、WEBライターのダ・ヴィンチ・恐山さんは「無音の音質が良い」という表現をしていた。なるほどねー)

 

プレスをかわすためボールを受け取り、そのままドリブルでシュートエリアまで突っ込む流川、そのすぐ横でパスを受け取り合宿シュートを決める桜木。スローモーションでボールがネットを抜ける様は、わかっていても鳥肌が立ってしまう。

 

そして桜木と流川のタッチ、湘北メンバーが駆け寄ってきて喜びを分かち合いながらフェードアウト。試合を終え、地元神奈川の海辺にてリョータとカオルが顔を合わせ、「おかえり」「ただいま」と挨拶を交わす。ずっとしまいこんだままだったソータの写真が食卓に置かれ、少しだけ家族の関係が変わったような、そんなシーンでした。

 

そしてラストなんですが、ここでちょっとしたサプライズが。湘北戦を終え、アメリカ留学をした沢北。現地の日本人記者の質問に、「日本との違いはフィジカルっすね。周りが全員河田さんみたいなもんなんで」と受け応える。

 

そして地元チームとの試合が始まるのですが、相手チームのポイントガードとして出てきたのがなんとリョータ。彼もまた、更なる高みを求めてアメリカのバスケへと挑戦した一人。ジャンプボールからボールをキャッチしたリョータと、そんなリョータのドリブルに真っ向から対峙する沢北。そんな二人が激突する段階で映画は幕を下ろす...

 

 

 

 

まるで本当の試合を観ているかのような臨場感、各キャラクターのリアルなバスケットの動き、リョータの過去を中心としたドラマと、全編にわたって没入して楽しめる映画だったと思います。原作最高の試合である山王戦において、原作そのままのフォームで各キャラクターが躍動するシーンなんかね、相当制作側が原作の動きを大切にしながらバスケットシーンを作り上げたのかがわかる。

 

クライマックスでBGMを廃した演出を採用したのも素晴らしかった。確かに31巻の怒涛の流れを映像化するならば、余計な音は排除するのが最適解だと僕も思います。

 

そんなわけで、スラムダンクという作品を愛好する人ならば絶対に観にいくべき(まああらかた観ているとは思いますがね)、素晴らしい作品でした。もう3回も劇場に足を運びましたとも(笑)

 

まあ、もちろん気になる点が無いわけでもない。

 

名場面尽くしの超濃密描写が連続する原作を、たった2時間弱くらいの一本の映画としてまとめるのですから、どうしても入りきらない場面があるのは仕方のないところです。山王戦の全てがおさまらないのは至極当然のこと。

 

しかしそれでも、赤木がずっと欲しかった仲間を得たことで「なぜこんなことを思い出してる。バカめ」と涙を流すシーンはカットしてほしくなかったな...。まあ、仲間が得られた実感を味わう瞬間は、チャージングで倒れた際にメンバーに起こされ、「オレの願いは叶えられてる...!」と心中で呟くシーンで描けているため切ったんでしょうけど。

 

また、山王戦よりも前の原作のシーンは、部分的に回想シーンで出てくるくらいで、ストーリーの大筋なども一切語られない。完全に「スラムダンクという物語を知っていること前提」の内容になっている。

 

そのため、「スラムダンクの内容まではよく知らないけど、話題作だから観てみるか」という人にとっては、「なんだかすごい試合だということはわかったけど、これどういうストーリーなん?」と思うこと必至。頻繁に挿入される回想シーンも、原作を読み込んでいないと時系列がわけわからなくなると思う。

 

そんな内容になったことで、一番割を食ってしまったのが流川。日本一の高校生になるという目標を安西先生から諭されたり、仙道との1ON1でアドバイスをかけられるシーンなどが無いため、それらのバックボーンがあるからこそ映える、パスの選択肢を得て沢北に並び立つシーンの説得力がやや欠ける。

 

赤木にバックパスを出してバスケットカウントを呼び寄せたシーンにて、彩子が「あの流川がパスを...!?」と驚いているシーン。1ON1でもゲームでも、プレイスタイルがほぼ変わらないセルフィッシュなプレイヤーであることがわかっているなら違和感がないのですが、この映画のみを観ているだけでは「なんでパスしただけでそんな驚かれるの?」という風に思われそう。

 

現在日本の漫画・アニメ界隈では、物語どうこうというよりも、気に入ったキャラクターに愛を傾ける"推し"の文化が盛んですが、僕のような箱推し(この言葉、人生で初めて使った)ならまだしも、流川推しの人にはだいぶ物足りない内容だったかも知れません。

 

その他にも、中学生のリョータと三井が初めて会ったとき、三井はまだその髪型ではなかったんじゃないの?とか、リョータが湘北1年の時の夏の大会は、対戦相手は陵南だったのでは?とか、赤木は2年生のときはすでに現在のような髪型になってて、番号は8番だったのに、なんで坊主頭で10番つけてるの?とか、細か〜く気になる点は散見されます。

 

漫画とは異なり、リアルな(ところどころスローモーションはあるが)動きの中での演出をする以上、原作のニュアンスとは違う印象を与えられるところもありました。

 

赤木のシュートが外れたところを「入ってろ!」と桜木が叩き込むシーン、漫画ではそこで時が止まったかのようなドラマチックさを誇る場面ですが、本作では試合の流れに沿って描かれるため、演出としてはややあっさりめでした。桜木の驚異的なリバウンド力を目の当たりにした野辺の「何で?」もしかり。スローばっかり使ってるとクドくなるし、リアルな試合の臨場感を損ねていないため、必ずしも悪いとは思いませんが。

 

これは静止画を自分のペースで読み進められる漫画と、強制的に映像が流れていってしまう映画とで、表現技法が全く異なるために、漫画で読んだ時とは印象が異なってしまうのはある程度は仕方ないのだろうと思います。

 

しかし、そんな細かな点をねじ伏せてしまえるだけのパワーが、やはりこの山王戦にはあるんですよ。先ほども述べた通り、リョータが深津・沢北のディフェンスの間をすり抜け、「第ゼロ感」が流れるあの瞬間の感情の昂りは、本当にたまらないものがあります。

 

現実のバスケットの動きに可能な限り近づけた試合のシーンも、バスケット経験者ならより楽しめるし、制作側の「試合をこれ以上ないほど劇的なものにしよう」という狙いもしっかり感じ取ることができる。改めてスラムダンクという作品が持つパワーというものを認識させられました。

 

スラムダンクが好きで、そしてこの映画を観ることができて本当に良かった。

 

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lynch. 『INFERIORITY COMPLEX』

  • 方向性はそのまま疾走感抜群に進化
  • ヘヴィさを廃したクリーンな楽曲の存在も大きい
  • 頭3曲の連打が圧巻の破壊力!

 

前回投稿したlynch.武道館ライヴのタイトルにもなった楽曲「THE FATAL HOUR HAS COME」が収録されている、2012年発表のフルアルバム。この機会に取り上げてみたいと思います。

 

このバンドはインディーズ期から現在に至るまで、基本的に楽曲路線が不変で、ヴィジュアル系特有の毒々しさに加え、モダンメタル的ヘヴィさ、エモ・スクリーモ的キャッチーさを内包した曲を出し続けてきており、本作においてもその方向性はきっちり踏襲されています。

 

さらに本作の特徴として、全体的に勢い、疾走感がかなり増量されている点が挙げられます。全10曲、総収録時間が40分に満たないというコンバクトさも相まって、非常に聴き通しやすく作られています。

 

これまで通りのダーク&アグレッシヴなエクストリームナンバーはもちろんのこと、クリーンギターが目立ち、ヘヴィさを減退させたような曲もあるのですが、そういった曲にも突き抜けるような勢いが感じられるのが嬉しいところ。そこへ彼ららしい叙情メロディーを、葉月さんの色気ある歌声が彩ってくれる。

 

M7「EXPERIENCE」〜M8「FROZEN」の流れは、疾走しててもヘヴィじゃない、クリアなlynch.を堪能できる一幕。シャウトをほぼほぼ封印しての軽やかな疾走は、耽美な歌メロと合わせて実に気持ちよく聴けますね。

 

しかし、やっぱりlynch.といえばヘヴィさを保ち、アグレッション爆発で攻め立てる曲が最も魅力的。頭3曲のM1「MOMENT」〜M2「THE FATAL HOUR HAS COME」〜M3「MIRRORS - we're not alone」による怒涛の畳み掛けは凄まじいの一語で、これから始まるアルバムの期待感を沸点まで押し上げてくれるのが最大のポイントですね!

 

この3曲の破壊力が際立ってしまっているがために、それ以降の楽曲が放つインパクトが少々控えめになってしまってしまうのは、キラーチューンを固めたことによる弊害で、まあある程度は仕方ないところでしょう。どの曲も完成度は高く、捨て曲になってしまうことはないので。

 

後半に用意されたタイトルトラックM9「INFERIORITY COMPLEX」は、本作中最もメタリックかつコアに攻めるギターリフ、キレたシャウトの応酬が楽しめるキラーチューン。そこからのラストM10「A FLARE」は哀愁の効いたギターフレーズが心地良く、それに伴いヴォーカルも強い憂いを帯びたミドル曲。最後にまた印象的な楽曲を続けざまに出して、締めくくりを魅力的なものにできているのも美点です。

 

ただ、M9のラスト2分はピアノのみのアウトロになっていて、これはトラック分けしてインストにしてほしかったな。1曲の中にまとめられるとダレの原因にもなっちゃうので。

 

総じてヘヴィでダーク、ときにクリアな叙情性重視の曲をはさみつつ、全体通してかなり突進力が強く、聴き手の爽快感はかなりのもの。隙のない完成度を見せた好盤と言えますね。

 

決してヴィジュアル系としてのクセが無いわけではないけど、露骨にそれっぽさを出してはおらず、むしろモダンメタルコアスクリーモとしての攻撃性が支配的なため、ヴィジュアル系に苦手意識を持っているラウドファンも、本作くらいのバランスなら十分に聴けると思うんですがどうでしょう?速い曲多いし。

 

 

個人的に本作は

"アグレッシヴなヘヴィロックの方向性はそのままに、突き抜ける疾走感を大幅にプラスした痛快作。クリーンでメロウな魅力も顔を出す"

という感じです。

 


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